★仕組み化★中小企業で本当に必要なデジタル人材とは

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「事業の仕組み化」に関する何でもありのコーナー

「デジタル化と言われても社内に人材がいない」
2024年7月12日付 日本経済新聞で、経済産業省の調査官が、中堅・中小企業のデジ
タル化に関する「人材の壁」についてお話されていました。
中小企業でデジタル化を進める際に問題となるのが「ふさわしいスキルを持つ人材が
社内にいない、採用できない」壁だと触れています。
今回はこの記事でも指摘されている①中小企業のデジタル化で本当に必要な人材と、
②地域伴走支援の課題について、中小企業の現状にてらしつつ紐解いてみます。

中小企業の実際


日本企業の99%は中小企業ですが、もう少しその内訳を細かく分解してみます。
令和3年経済センサスをもとに計算すると、企業全体のうち常用の従業員規模
0~30人未満の企業数だけでもう90%以上と大多数を占めています。
常用の従業員規模50人未満にして約95%、100人未満にして約97%と、日本企業
全体の99%にあたる中小企業とは、30人未満の企業がほとんどです。
つまり中小企業のデジタル化とは、従業員規模30人未満の会社をいかにデジタル
ツールで効率化して生産性を上げていくか、になると言えます。

(出典『令和3年経済センサス‐活動調査 企業等に関する集計-産業横断的集計-企業等数、従業者数』より)

中小企業で本当に必要なデジタル人材とは


デジタル人材に関しては「どんなスキルを持った人材が必要なのか把握できない」課題
があるとして、経済産業省では企業がDXを進めるうえで必要な人材とスキルを示した
「デジタルスキル標準」を定めた紹介がありました。
このデジタルスキル標準のなかで定義するDX人材は以下の5類型です。

1)ビジネスアーキテクト
2)デザイナー
3)データサイエンティスト
4)ソフトウエアエンジニア
5)サイバーセキュリティ―

記事中でもありますが、従業員規模30人未満の会社でこのような人材を雇用するのは
非現実的です。
大手企業でも引き合いが強く給与面が折り合わないし、万が一入社したとしても社長や
上司が的確な指示を出し切れず、入社後の育成も大変です。
また非デジタル人材がいきなりビジネスアーキテクト等を目指すのも、ゼロから次のス
テップアップまで開きすぎています。

ではこれからデジタル化に踏み出す中小企業が最初に必要な人材はというと、「自社
の事業や業務内容を理解して、取引先のシステム会社に自社の要望を伝えられる人」

につきます。
日常業務のイメージでは、社内のシステム周りの内容を確認して、取引先のシステム
会社へ「どうしてほしいか、何が困っているか」を伝えて対応してもらう窓口業務、
「システム窓口担当」です。

デジタル人材育成に向けた知識面の対応


「システム窓口担当」というと高度なデジタル人材のように感じますが、実際は学生でも
独学できるような基本的なIT知識があれば知識面の土台はまかなえます。
具体的にはシステム会社へ就職を狙う学生やビジネススキルの一環として学ぶことが多い
「ITパスポート試験」の知識レベルです。
(本当はITパスポート試験の前身である「初級システムアドミニストレータ試験」まで
カバーできると理想でしたが、試験制度の統廃合で変わってしまったのが残念です。)
「ITパスポート試験」は非デジタル人材がデジタル人材へ初めの一歩を踏み出すステッ
プに丁度よく、「システム窓口担当」なら社内人材からの育成も十分可能性があります。
この試験を目安にシステムの成り立ち大枠と用語をインプットするだけで、システム会
社の担当者が話す言葉がなんとなくわかるようになります。

「なんとなくでいいの?」と思うかもしれませんが、専門分野は専門家に任せてしまい、
わからないことは質問して解説をお願いしたり、後ほどネットで検索したりで十分です。
逆に、こちらからの質問に素人でもわかる解説をしてもらえないシステム会社は、お付
き合いするにはレベルが高すぎると割り切って、丁寧に解説をしてくれて内容に納得で
きるシステム会社との取引をお勧めします。

デジタル人材育成の経験面の課題


知識面は一般的なITパスポート試験の内容で担保したとして、経験面は自社の状況に
あわせた対応ノウハウの蓄積がどうしても必要です。
従業員規模や業種・業態によって予算感と利用するデジタルツールが違っていて、何よ
り自社の業務フローを把握できていないと必要なデジタルツールの見極めができません。
省庁の資料や公的機関の相談窓口では簡単に「業務フローを書いてください」といわれ
ますが、人手に余裕がない中小企業で業務フローの見える化に人と時間はなかなか割
けず、業務フローの作り方もわからないのが実態です。
経験面は自社の現状と目指す姿にあわせて培っていくしかない部分と言えます。

経験面の不足を補う伴走支援


そこで調査官の方が次にお話していたのが、中小企業を外部の専門家・支援者が伴走
支援する指針を示した「DX支援ガイダンス」です。
中小企業単独では難しいデジタル化を、伴走支援役の地元金融機関、ITベンダー(シ
ステム会社)、コンサルタント等がタッグを組んでデジタル化を推進していくガイドに
なっています。
先ほど挙げた人材育成の経験面の課題解決手段として、地域の伴走支援者と中小企業
の二人三脚によるアプローチを推進しています。
自社だけでデジタル化を達成しようとせずに、身近な相談先へヘルプを出して、地元金
融機関や士業、システム会社、コンサルタントなどふさわしい専門家を紹介してもらい、
積極的に活用してください。

伴走支援で必要な取り組み


とはいえ「DX支援ガイダンス」は2024年3月に初版が策定されたばかりで、実際の運
用はまだこれからです。
また本ガイダンスの策定過程で行われたヒアリングで、伴走支援アプローチの課題が
抽出されています。

①中小企業の課題
デジタル化と聞いて「うちには関係ない」と避けてしまう経営者と、新しいことにチャレン
ジをしたがらない社員が指摘され、意識の変化が必要とされています。
またデジタル化の推進は社内改革であり、経営者が推進しても社員と熱量が異なるこ
とも多く、進捗に時間がかかるとされています。

②支援者側(地元金融機関、ITベンダー(システム会社)、コンサルタント)の課題
従業員規模30名未満の企業が多いなか、継続的な支援が成り立つビジネスモデルが
確立できていません。
これは金融機関からも指摘されていて、大幅な底上げで手間がかかるのに資金力が
弱い中小企業の継続支援が試行錯誤とわかります。
また支援人材も人手不足で、その育成方法も確立できていません。
様々な分野でデジタル化が進み進化も早いため、単独の支援者ではニーズに応えき
れず、支援者同士の横の連携が必要ともされています。

ガイダンス策定段階に出た①②の課題と中小企業の現状をふまえ、3つ目として制度
面の課題も感じています。

③支援制度の課題
膨大な企業数と不足する支援人材を考えると、「システム窓口担当」レベルの人材育成
がないとデジタル化の推進は難しく、支援期間の短縮と持続的な成長に欠けてしまい
ます。
現状の経済産業省の補助金制度または厚生労働省の助成金制度では、人材育成で
個社に根差した経験面を培う実務支援までカバーできる助成が意外とはまりません。
実際に『人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)』の活用がITスク
ールの提供する汎用的な知識・スキル習得型の講座が多い点で、ここまで見てきた中小
企業のデジタル化底上げ対策と少し離れていると感じます。
またシステム会社が補助金でデジタルツールを導入しただけでは、運用する人材が不
在で立ち行かず、結局は中小企業に恩恵がもたらされていない事例も出ています。
対象の見極めが重要ですが、きちんとデジタル化に取り組む中小企業に対しては運用
実務ができるまでの長期的な人材育成サポートと、その資金支援が必要と考えます。

まとめ


ここまでデジタル化を求められている中小企業の実際、そのために必要かつ適切な内
部人材の要件、外部から中小企業を伴走支援する支援者と課題について整理しました。
中小企業のデジタル化に高度なデジタル人材は必要なく、自分たちの業務を理解して、
専門家である支援者に希望を伝えられる「システム窓口担当」で十分です。

支援者側も企業側から「何をしたい」と明確にしてもらえたら、その意図を組んだ提案
やサポートをしやすくなります。
ただし、中小企業がデジタル化で効率化を図って生産性を向上したり、さらにその先の
イノベーションをおこしたりするには、地道で長期的な継続支援が必要です。
デジタル化は社内改革であり、経営者や社員の意識改革も求められ、最低限の運用が
回せる社内人材が育ってこそ効果を発揮し始めます。

経済産業省の調査官のお話は、これまで中小企業支援の現場にいる支援者に「そこじゃ
ない」感があった進め方に比べ、肌感覚がずいぶん近づいてきた内容でした。
中小企業活性化の施策を考える省庁の最新の考えや方針をしっかりキャッチアップして、
支援者である私たちも連携して、中小企業が本当に必要とするサポート方法をともに
作り上げていけたらと考えます。